彼の名が初めて大きく取り上げられたのは、1984年のビューティフル・ドリーマーで
あったようです。
原作の「うる星やつら」といえば、高橋留美子の人気コミックで、
当時のアニメファンには絶大な人気を誇っていました。
「押井守が描いたからうる星に人気が出た」のか、
「うる星を描いたから押井の人気が出た」のかは何とも言えず、
むしろ後者の方が大きかったのかも知れませんが、
この大きな作品を借りて、彼は俗に言われる「押井ワールド」を完成させました。
それが、このビューティフル・ドリーマーです。
この作品は、映画評論家、評論家的見方をする一部アニメファン等には、
絶大な支持を受けました。
それは、彼がいわゆるアニメにこだわらない、
「映画」としての密度を持ったアニメーションを作ろうとしたことによると思います。
この作品のテーマ、「この世界は夢なんじゃないか?」という問いかけが、
この一見オタク的なアニメの全編を貫いて繰り返し提示されます。
永遠に終らない文化祭。永遠に終らないお祭り騒ぎ。
夢というテーマを、本当にあからさまに、
アニメの中で取り上げたこの作品は、
彼の作品群の大きなターニングポイントとなりました。
主人公で、ヒロインである「ラム」は、この作品ではほとんど活躍しません。
目覚めぬ彼女の夢の中で物語が進行するからです。
それでも、この作品はいわゆる「アニメファン」にも支持されました。
「うる星」がそれだけ懐の深い作品であったと言う証拠なのか、
押井ワールドが支持されたのかは定かではありませんが、
彼はこの作品から、彼の世界を前面に押し出すようになったと感じます。
演出家としての彼に、自信を持ったのではないでしょうか。