震える魂の遍歴
− ガンム −

銃夢


木城ゆきと/集英社

ライトSFに分類されるであろうと思われる作品です。
一般誌(ヤングジャンプ)に連載されただけあって、 読みやすさや画面の派手さを狙った部分も目につきますが、 テーマは深いものがあります。

天空に浮かぶ巨大な都市「ザレム」。その真下にはザレムからの廃棄物、 スクラップなどでボタ山ができ、その回りに「クズ鉄街」が広がっていた。
クズ鉄街の医者、イド・ダイスケはスクラップの山の中から、 数百年間も眠っていた記憶喪失の少女を見つけ出し、彼女に体を与え、 「ガリィ」と名付けた。
ガリィは何故か格闘技「機甲術(パンツァークンスト)」を身につけていた…。

このガリィが主人公となって話は進んでいきます。
見上げればいつも美しくそこにあるザレム。
見回せばくすんだクズ鉄街。
彼ら「クズ鉄街」に住む人々の思いの中で、ガリィは生きていきます。
彼女に残された力、機甲術だけを頼りに、彼女は闘い続けます。
ガリィ自身を求めて。

闘うとは?生きるとは?人間とは?
機械の身体とそれを操る機甲術を持ち、それ以外は何も持たない彼女は、 この問いを銀のスプーンのように握りしめて眼を覚まします。
彼女の震える魂は、答を求めてさまよいます。 ただ闘いだけが待つ荒涼とした世界を、あてもなく。
彼女の行き着く先はどこなのでしょうか。
そして、私達の行き着く先は。

途中から登場する、狂った天才科学者「ノヴァ」。
彼は確かに狂っています。しかしそれでも、私は彼に共感せずにはいられません。
彼はすべてを憎むといいます。
「運命」の名の下にすべてが決定され、 人はそれを受け入れることしかできない、冷酷な世界を。
彼の絶叫は私に突き刺さります。
そんな彼が見た夢。
あまりに切なく、美しすぎる夢。
どうぞ皆さんの目で確認して下さい。

コミックスは9巻で完結しています。
待つことなく、一度にこの作品をそろえられる喜びを、 どうぞ味わって下さい。

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