2000年に散財したものたち

サンザイバー2000


2000/12/11 02:30 a.m.

獣たちの夜: BLOOD THE LAST VAMPIRE
押井守
富士見書房

情報量の持つ心地よさを前面に押し出した、 実に衒学的な作品。 かなり好き。だけど、これは読む人を選ぶはず…。 「画になる」という観点も抜群。 押井節も散りばめられていて、随所で「にやり」とさせられる。

ただ、実に後味の悪い作品であることも確か。 「おまえはそうやってそこで生きつづけていろ」とでも言われたかのような、 無力感が残る話はいささか痛い。 なんかミもフタもなくてね。

狗狼伝承: 精霊少女・ミュリエル
新城カズマ
富士見文庫

いまさらながら読了。着々と進んでますな。

殺竜事件
上遠野浩平
講談社ノベルス

いまさら第2弾。らしくないといえばらしくないけど、 上遠野さんの芸の広さを見たといえばそうかも。 普通に面白い。

まりんとメラン
渡瀬のぞみ
角川書店

これは良い。暖かな物語と痛い現実との描き方のバランスがいいからかな。 キャラもかわいいし。しかし、「あは〜ん」ですか…。

パラノイアストリート 1
駕籠真太郎
メディアファクトリー

何かがやばいくらい面白い。まさに不条理。


2000/11/27 03:00 a.m.

キノの旅II - the Beautiful World -
時雨沢恵一
電撃文庫

連作短編集の2巻。 いい話とそうでもない話の振幅がやや大きいか。 ともあれ、全体としてまずまず。 短編であるため、 どうもネタというか落ちというかがあらわに表現されすぎていて、 そこが若干引っかかっているのだけれど、 まあ観察続行ということで。


2000/11/25 04:00 a.m.

愛を乞うひと
下田治美
角川文庫

なんとも重い気持ちになる。 生みの母から壮絶な虐待を受けてきた女性が、 母となり、娘を産んで愛を手に入れる。 実の父の遺骨を求める彼女の探求は、 そのまま愛を求めた旅路となる。 ひたむきに求めずにはいられないその姿が胸を衝く。


2000/11/22 04:00 a.m.

蒲生邸事件
宮部みゆき
文春文庫

逸品。 時間の中を自由に行き来できる男、 偶発的事故でその男によって過去に連れて来られた少年、 そして少年の飛ばされた、二・二六事件勃発中の東京に生きる人々。 未来を知りうる立場にいる、いわば「まやかしの神」である人間が、 定められた通りに流れつづける歴史に対してどのように立ち向かうのか、 どのように生き、苦しみ、喜び、そして去ってゆくのか。 「今、この世界を生きる」ことの誇らしさ、喜ばしさを、 歴史の持つ重みそのままに伝えてくれる。


2000/11/21 01:30 a.m.
VAIO 505 が逝った…蘇生したけど…

ガラスの麒麟
加納朋子
講談社文庫

見事。 形式は作者お得意の連作短編集だが、今回はまた一味ぴりりと利かせたつくり。 強く、もろく、激しく、危うく生きる少女たちの姿が鮮やかに浮かび上がり、 本の最後にはすべての出来事が意味のあるものとして美しく連なる。

文庫版: 狂骨の夢
京極夏彦
講談社文庫

相変わらずすごい。ただもうぐいぐいと読み進めるのみ。

ポプラの秋
湯元香樹実
新潮文庫

いいお話。実にやさしい気持ちになれる。

まぼろしの郊外: 成熟社会を生きる若者たちの行方
宮台真司
朝日文庫

近年の少女たちの変貌を、 幻想が支えきれなくなった社会の中で生きるための方策として捉え、 そういった背景構造への考察がない、 場当たり的な「臭いものにふた的な対策」を非難する姿勢には納得。 終わりなき日常への恐怖、 これまでの世界が失われることへのおそれにつけこみ、 そこにしがみつかせようとする人たちがいる、 との指摘にも同意。 というわけで基本的に面白く読めるのだが、 「このような社会の中での生き方」は書いてあるのに、 「このような社会は個人にとって、日本にとって、 そして人類全体にとってどうなのか」 の言及がないのが残念。 つまり、このような「終わりなき日常をまったりと生きる」社会は、 人間社会の生産性、進化性、多様性といったような観点から見て、 「望ましい、より種として生存しやすい環境」の方へ向かっていけるのか、 という視点がない。 社会は与えられた条件としてそこにあり、 そこに望ましい等の観点はない、 というのならそれはそれでひとつのケツのまくり方だろうが、 やはり「この社会はどこにどのように向かっていくのか、 その功罪は何なのか、 そして(もしあるのなら)どのような方向がより望ましいのか」 という追求は欲しいところである。 (若干触れてあった気もしたのだが、今ぱらぱら読み返しても見つからないので…)

刑務所の中
花輪和一
青林工藝舎

実に緻密。 横暴な官吏に抑圧され苦しむわけでもなく、 悔恨の情にあふれているわけでもなく、 ただ淡々と流れる刑務所の日々を描く。

ぴたテン 2
コゲどんぼ
メディアワークス

「ごはんとかできます」くうぅ〜。

あずまんが大王 2
あずまきよひこ
メディアワークス

この巻も大丈夫!

ジオブリーダーズ 6
伊藤明弘
少年画報社

高見ちゃんが出てこないのが残念だが、ねこまやが出るので良し。 サービスも多いし。 ラストはいい絵を持ってくるな〜。

風まかせ月影蘭
作: 大地丙太郎/画: SUEZEN
角川書店

こんな話だったんだ〜。

MONSTER 15
浦沢直樹
小学館

なんだかこの巻は泣かせが多い気がするんですけど。

イティハーサ 7
水樹和佳子
早川書房

完結。確かによいものを読ませてもらった、 という充実感が残る。


2000/10/30 3:30 a.m.

おもいでエマノン
梶尾真治
徳間デュアル文庫

とにかく有名な作品。 心を強くつかまれて揺さぶられるような「美亜に贈る真珠」と比べると、 突然ぐっと胸を衝かれるような強さはない。 けれど、静かに、だけど着実に、切なさが心に広がってくる。 大事にとっておきたい作品。

球形の季節
恩田陸
新潮文庫

とろとろと眠ったかのような田舎町。 その日常の皮がつるりとむかれると、 そこには冷たくも荒々しい「向こう側」が広がっている。 と、こんな世界を実に緻密に、そして自然に描いてしまう筆力がすごい。 向こう側で待ちつづけるもの、向こう側へと渡るもの、 引き返すもの、そしてこちら側で待ちつづけるもの。 それぞれの少年少女たちが選択を行う、その時の心の動きが、 読む方にダイレクトに伝わってくる。


2000/10/24 08:00 p.m.

光の帝国: 常野物語
恩田陸
集英社文庫

素晴らしい。

恩田陸は、NHKドラマ「六番目の小夜子」の原作として知ってはいたけれど、 これほどいいものを書いていたとは知らなかった。 「常に野に在るべし」と自らを戒め、 静かに、ひっそりと暮らす、特別な力を持った人たち。 そんな人たちの一つ一つのエピソードが積み重なり、 1つの大きな物語を感じさせる。読むべし。

いちばん初めにあった海
加納朋子
角川文庫

哀しみにとらえられた2人の女性が救われるまでを描いた、 実に心地よい作品。 暖かく、優しく、心に何かが満たされるのを感じる。 これまた読むべし。

竜が飛ばない日曜日
咲田哲宏
角川スニーカー文庫

この新人さん、わりと期待できる気が。 面白い作品。 テーマで大上段に振りかぶるんじゃなくて、 見せ方、読ませ方の方に気を使いながらきれいにまとめてきたところが 普通の新人らしくないといえばらしくないかも。 次の作品が出たらとりあえず買うでしょう。


2000/10/18 10:00 p.m.

金髪の草原(映画)
犬童一心 監督
1999年、日本

よろしゅうございました。

冒頭、伊勢谷友介演じる日暮里歩が実にじじくさく階段を降りるところで、 ぐっとつかまれる。 「あ、よい映画になりそう」とその瞬間に思える。 続いて出てくる柳英里紗がこれまたすごい存在感。 この子の演じる日向ともみは映画オリジナルの役だけど、 この話にきっちりはまってる。

で、もちろん池脇千鶴はかわいいだけではないわけで。 男の部屋でパンツはいちゃったりとかするのがわかりやすいけど、 もっと普通のシーンでも、どこか「えらく大人」なものを 優しく優しくくるんだ表情をしているところが恐くてかわいい。

泣き所はごろごろあるけど、 ぐっときたのは電話のシーンと追っかけのシーンかな。 ラストシーンは 「あれっ、(原作の)あの言葉は?いやこのまま終わってもいいけど、 (原作の)ああいうせりふは恥ずかしがらずに出すべきなんじゃないの?」 と一瞬思い、エレファントラブのエンディングテーマを聞いて、 「あ、ここにあった」と腑に落ちるという流れに。

とまあ備忘録のような感想で失礼ですが、見ましょう。


2000/10/18 2:00 a.m.

鵺姫真話
岩本隆雄
ソノラマ文庫

タイムトラベルに関わるひねりがよく効いている。 普通に面白い。

改訂版 花咲ける孤独
山田花子
青林工藝舎

参った。あまりに深い孤独、あまりに深い絶望。 つらすぎて一気にはとても読めない。 読むときは体調を整えて詠むべし。アタります。

月詠 1
有馬啓太郎
ワニブックス

押さえるべきところを押さえようと購入。 良いですな。 吸血鬼ものというところも、人外好きとしてはうれしいところ。 2巻も押さえよう。

SF/フェチ・スナッチャー
西川魯介
白泉社

これまた押さえるべきところ。 メガネっ娘、フェチ、SFの合わせ技がきっちり決まる。 同時に買ったワニマガジンの「初恋☆電動ファイト」は少しエロ度プラス。 「昇天コマンド」買ってこないと…。

キャッツ・ワールド
OKAMA
角川書店

OKAMAさんの非青年向け (非{青年向け}であり、{非青年}向けにあらず)。 造形的センスはさすが。 猫の造形はちょっと謎だけど、それも含めてOKAMAワールドなのでそれでよし。

宇宙おてつだい☆やよいさん
絵: 佐々木亮/原作: 藤波智之
ノアール出版

佐々木さんの絵がなつかしくてふらふらと購入。 ほのぼのほろりの話が画風によく合っている。 わたくし的に当たり。

犬狼伝説[全]
絵: 藤原カムイ/作: 押井守
角川書店

買ってしまった大物。いいんです、ファンなんだから…


2000/10/7 4:00 a.m.

皇帝のいない八月
小林久三
日文文庫

クーデターもの。そこそこ面白いが、もう少し深みがほしかったところ。


2000/09/30 6:00 a.m.

田宮模型の仕事
田宮俊作
文春文庫

田宮模型の歴史、模型に魅せられた人々を語ったノンフィクション。 模型への愛がいっぱい。 やっぱりポリシーを持って作っているところは違う、 と感心させられることしきり。

わたしはガンプラを作らずに大人になったいびつな人間なので、 Yujinの500円でじこ・ぷちこ・うさだから飾ることにします。


2000/09/22 2:30 a.m.

夏の庭 The Friends
湯本香樹実
新潮文庫

ノスタルジックな美しい作品。 誰もがきっと持っていたはずのもの、 通り過ぎてきたはずの世界が鮮やかに眼前に現れる。

夏休み、「死んだ人」を見たくなった小学6年生の3人組は、 たった一人でボロ家に住んでいる老人を「観察」することにする。 やがて見る・見られるという関係から、 奇妙な友情が生まれてゆく。

登場人物に注ぐ視線が全て温かいのが心地よい。 子供時代はいつしか終わりを告げ、 少年は大人へと変わり始める、 その瞬間を繊細に、見事に描いている。 「かつて子供だった」大人が読んでこそ味のある作品。


2000/09/19 1:30 a.m.

ラビリンス<迷宮>
新井素子
徳間デュアル文庫

別の命を奪って生きるしかない「いのち」について実にまっとうに描いた、 良い作品。子供のころに読みたい。


2000/09/11 2:00 a.m.

革命暮れて皿洗い: ガンゴースト
川崎康宏
ファミ通文庫

今年2冊目とは、川崎さんも突然頑張ってますな。 表現を一歩引いたものにすることによるおかしさ、 という彼の文の特徴がいいバランスに戻っている感じ。 「隊長は倒れてる」より面白さ的には上の気がするが、 川崎文体に慣れただけという可能性も捨てきれない。 まあとにかく、面白い作品。

ぼくらは虚空に夜を視る
上遠野浩平
徳間デュアル文庫

この世界は結局のところ、壮大なシミュレーションの舞台に過ぎないのではないか、 という「世界の現実感の喪失」は、 わたしも含めた現代の一部の人をとらえて離さない思考らしい。 上遠野浩平の新作は、そんな作品。 世界をシステムとして捉えるとか、その中の神という存在とかいったモチーフは、 すでにさまざまな作品で幾度となく語られてきたものだけれど、 今回の作品では、「虚空」の中の「存在」という表現のうまさと、 人間のフロンティアへの欲求を描いている点を評価したい。 もっとも、フロンティアへの志向については、 あとがきの文章が非常にヒットしたということなのだけれど。

現実感の喪失を日ごろから感じている人は、 この作品を読むのはなるべく健康なときを選んだほうがいい。 そこに踏み込んだら危険だ危険だと思いつつも、 ついつい虚空に惹かれてしまいそうになる。 そういう上手さが、この作品にはある。

文句を言わせてもらうと、 技術的なディテールを表現しようとしたとたん、 かっこ悪くなってしまうのはどうにかならないのだろうか。 「僕は自動的なんだよ」みたいな感性の方で勝負して、 感性で押し切ったほうがきれいだったのではないか、 そう思えてならない。 特にラストシーン。 「この作品なら、これしかない」という、 実にいいものであっただけに、 ごっつくさい描写が入っているのが残念で仕方がないのだが、 これはわたしだけなのだろうか。


2000/09/10 1:30 a.m.

金髪の草原
大島弓子
朝日ソノラマ

映画化にタイアップして出された軽装版を購入。 表題作を含んだ短篇集。 最高の夢よりもなお、現実の方が素晴らしい、 ということを「すとん」と直感的に信じさせるのがさすが。 現実をきちんと切り取りながら、それでも世界は美しいと信じさせる「ダリアの帯」も、 怖くてきれいで、哀しくていとおしい世界を幼い少女が見つける「夢虫・未草」も、 どれもこれも大切にしたい作品ばかり。 中でも、「夢虫・未草」や「水枕羽枕」のように 「少女」を描かせると天下一品ですな。

ヘヴンズ・ルール(3): 月光の轍
後池田真也
角川スニーカー文庫

いたって普通。

コールド・ゲヘナ
三雲岳斗
電撃文庫

そろそろ三雲さんのも読まなきゃ、とまずこれから読み始め。 これまた「普通に」面白い気がするけどな〜。


2000/09/5 1:30 a.m.

U-157(映画)
ジョナサン・モストゥ監督
2000・米

試写会にて。非常に男くさい、スリルに満ちた作品。 潜水艦ものはいいですな。 眼下の敵とか好きな方はよろしいはず。 水面ぎりぎりの映像描写はマル。


2000/09/4 11:30 a.m.

松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集
松田優作、丸山昇一
幻冬舎アウトロー文庫

俳優松田優作と脚本家丸山昇一が作り出した、 映像化されなかったシナリオ集。 主人公のセリフが自然に優作の声で聞こえてくる。 冒頭の「荒神」なんかはぜひ映画館で見たかった。 優作が逝ったのは、早すぎたねぇ…。

H-II ロケット上昇
松浦晋也
日経BP社

完全国産ロケットH-IIが打ち上げられるまでの40年間、 特にH-II開発の12年間の流れを丹念に追ったノンフィクション。 ロケットの設計や、技術的な壁とその突破法など、 技術的な側面が詳しく解説されている点が非常にうれしい。 特に、ロケットの設計が、 技術的制限だけではなく、発射台、観測所等の地理的制限、 爆発物の法規的制限など、 さまざまな制限によって規定されているところを きちんと説明しているのは良いと思う。 国産技術にこだわる理由もよくわかる。 おすすめ。

冥王と獣のダンス
上遠野浩平
電撃文庫

ブギーポップでない上遠野浩平の新作。 それほど「りきみ」が感じられない、 さくっと読める作品に仕上がっている。 絶賛はしないけれど、いい話。 こういう結末は好きだし。


2000/08/21 11:00 a.m.

自虐の詩 (上・下)
業田良家
竹書房文庫

これは必ず読むべき作品。 幸薄い幸江(ギャグマンガなので当然ブス)と、 定職も持たずいつもちゃぶ台をひっくり返しているイサオの物語がメインの、 連作4コママンガ。 形式は4コマだけれど、ストーリーの占める比重が大きい連作。 「ぼのぼの」のような形式、というと通りが良いだろうか。

上巻では、少し哀しいような、でも笑えるような、 やや単調な感じも否めないマンガが続くけれど、 下巻に入り、最強のブス熊本さんが現れてからは、 ストーリーが一気に盛り上がる。 誰にも媚びない熊本さんの生き様がかもし出すほろ苦い笑い、 幸江の熊本さんへの友情、裏切り、そして再び生まれる絆。 子供を身ごもることをきっかけとして幸江が発見する世界への視点。 そういった要素が読者の前に次々に展開し、 感動のラストシーンへと突入していく。

ラストシーンで幸江は確信するのだ。 幸せとか不幸せとかを超えたところにある、 人生の意味の存在を。 そして、それはそのままわたしの心にも確信として残る。

読まなきゃダメです。

イギリスはおいしい
林望
文芸春秋文庫

イギリスとイギリス料理に関する名エッセイ。 所々に現れるイギリス人のユーモア感覚が非常に面白い。

新世紀鳥獣戯画: アニマル・ファーム
鎌やん
コアマガジン

戦う特殊漫画家(ありていに言えばロリですな)、鎌やんの作品。 主義主張を何にもくるまずにそのまま前面に押し出すマンガというのは、 彼が言う「表現」としてどうかと思うのだが、 非常に考えさせられるという点は確か。 最近の少年達には背伸びをして読んでもらいたいような、 そんな作品。 当然エロで、18禁なのでご注意を。

巻末の宮台真司との対談や後書きにある「少女幻想」「革命幻想」なんて言葉にはドキッとする。 そして、それらの幻想が滅び行きつつあるという現実には、 喪失の痛みとでも言うような軽い心のうずきを覚える。


2000/08/19 1:00 a.m.

ドラゴンフライ(上/下)
ブライアン・バロウ
筑摩書房

NASAと組んでミッションを行うようになった90年代の宇宙ステーション、ミール。 そのミールを襲う幾多の危機と、そこで翻弄される宇宙飛行士をはじめとする関係者達の姿を、 緻密に描いたノンフィクション。 宇宙空間の事故の恐怖、それ以上に恐ろしい2つの宇宙大国の組織内の硬直化、 政治的駆け引きが赤裸々に記された、実に良い作品。 宇宙大国のプライドと現実がよくわかる。 国際宇宙ステーションが本格的に運用されるようになれば、 このミールを襲ったような故障、事故は避けられないだろう。 それらを軽視することなく、しかし恐れることなく、宇宙開発は進めていくべきであり、 また納税している我々も、それなりの覚悟を持ってサポートしていかなければならないのだ。


2000/08/18 2:00 a.m.

ピニェルの振り子
野尻抱介
朝日ソノラマ文庫

野尻さんの新シリーズ「銀河博物誌」の1冊目。 宇宙規模の振り子を構成する生物のサイクル、というネタは面白い。 が、わたしがそれ以上にぐっと来たのは、 博物学者のパトロンであるレグラス伯爵の言葉、 「それが人間のやり方だ」という言葉だった。 自然のサイクルに介在できる力を持った人間は、 その力を積極的に使って、精一杯あがいて生きていくべきだと思う。 単純な科学信奉に見えるかもしれないけれど、そうではない。 そうではなく、人間という生物は、 自分を取り巻く環境を作り変えられる能力も含めて、 宇宙の多様性を保つために存在しているのだと考えられるからだ。

進め!双角小隊: 隊長は倒れてる
川崎康宏
富士見ファンタジア文庫

だいぶ遅れたけど川崎さんの最新刊。 面白いけど、昔はもっと面白かった印象があるんだけどな〜。

イグナクロス零号駅
CHOCO
メディアワークス

駅長さんのデザインに撃沈。 ストーリーは異様にぶっきらぼう。この手の漫画は何故かそうなりがちだけど、 もうちょっと親切に作ってあげないと作者も読者もかわいそうな気が。

イティハーサ 1〜4
水樹和佳子
早川文庫

古代日本を舞台にした神と人との物語。これは素晴らしい。 主人公達の心のひだから神という存在を作り上げるシステムまで、 全てが緻密に組み上げられ、恐ろしいほどの説得力をもって迫ってくる。 早川文庫のコミックで全7巻、月1巻ずつ配本中。次の配本が待ち遠しい。

花右京メイド隊 2
もりしげ
秋田書店

すっかり普通のギャルものですな。もう昔がどうこう言わず、普通に楽しみましょ。


2000/08/10 2:00 a.m.
う〜む、7月の記憶がないぞ。というわけでごくごく簡単に。

最終兵器彼女 1・2
高橋しん
小学館

あいたたた、だめです、おなかの方のやらかいとこに直撃です。 痛いです。哀しいです。人前では読めません。

でも、「それじゃあ」と思って買った「好きになるひと((高橋しん初期短編集)」 はごく普通の「いい話」という印象しかなくて。 最終兵器彼女というガジェットの勝利なのね。

ニア アンダーセブン 1
安倍吉俊
角川書店

アニメ版も好き。

蝿の王
ウィリアム・ゴールディング
集英社文庫

古典らしい。第3次大戦中、無人島に子供だけの集団が流れ着く。 自由を謳歌し、緩やかな秩序を守って暮らし始めた彼らだったが、 知らず知らずのうちに平和は破れ、 凄惨な社会へと変貌を遂げてゆく、という話。 確かに名著。 この話に、さらに「正しいと思う方向に進めば進むほど行き詰まる、 閉塞した世界」という要素をたっぷり混ぜると、「リヴァイアス」ですな。 これが元ネタだったのか…。

辺境警備シリーズ
紫堂恭子
角川書店

名作の誉れ高いシリーズは、確かに面白い。 良くあるファンタジーからさらに一段高い完成度。

星虫
岩本隆雄
朝日ソノラマ文庫

待望の復刻。面白いし、後味すっきり。 ちょっと主張があからさま過ぎて、 わたし的にはややどうかなと思わなくもないけれど、 読んでおいていい話。

キノの旅
時雨沢恵一
電撃文庫

新人さんだけど、上手すぎる。 まるでプロみたいに上手くまとまりすぎて、 ちょっと物足りない感じ。 新人だと知って読まなければ、いい話。

鉄腕ガール 2
高橋ツトム
講談社

高橋ツトムは、ぎりぎりの世界で生きる人を描かせるといい。 鉄腕ガールは、そんな世界の中で「伸びやかに」生きる美しさが加えられて、 いっそう魅力を高めている。

ターン
北村薫
新潮文庫

美しい語り口が素晴らしい。 主人公達の世界が重なり合ってゆくときの文章なんかは、 読んでいて鳥肌が立った。

まどろみ消去
森博嗣
講談社文庫

ごく普通に読める短編集に成り下がってる気が。 自伝風に書かれた「キシマ先生の静かな生活」も、 業界に身をおくものとしては「普通すぎる」という印象が…。

恋愛ディストーション 1
犬上すくね
少年画報社

降参です。勘弁してください。メガネっ娘ばんざい。

成恵の世界 1
丸川トモヒロ
角川書店

初登場時はてっきり色物だと思ったけど、 案外いい話だったのです。

あいどる
ウィリアム・ギブスン
角川書店

悪くはないけれど、どうしてもギブスンの作品となると要求水準が高くなってね。


2000/06/25 11:00 p.m.

スケアクロウ(映画)
ジェリー・シャッツバーグ監督
1973 米

非常に男くさい友情もの。 いい話だが、ストーリーとして非常に漠然としているのはどうか。 ラストなんか、「えっこんなシーンで終りなの?」という唐突さ。 中盤をもう少し引き締めて、ドラマチックなラストを演出したい、 と考えるのはカンヌ的には駄目なのだろうか。


2000/06/25 06:00 a.m.
ブコウスキー強化月間か?

町でいちばんの美女
チャールズ・ブコウスキー
新潮文庫

短編集。最初の表題作「町でいちばんの美女」にガツン、と一発食らわせられる。 これはいい。普段私は本にしるしをつけたりしないのだが、 思わずページの隅を折ってしまうくらい良い。 おそろしいくらい美しく、物狂おしく哀しい愛の物語。 飲んだくれの醜男と、少し不安定な美女とが出会い、 それが定めであるかのように自然に求め合い、愛し合い、 そして別れるまでのごく単純な話だが、 そこに全てがあることを読者に叩き込んでくる。 ラストシーンはもう涙、涙。 間に合わなかった後悔だけを抱きながら飲み続ける主人公の姿が心に残る。 それでも彼は生き続けるし、私が彼の立場であっても生き続ける。 武田泰淳の「司馬遷は生き恥さらした男である」に惹かれることといい、 どうも私はこういう男にひどく共感する面があるらしい。

他の短編では、「チキン3羽」「かわいい恋愛事件」がよい。 どちらも美しく哀しい愛の物語。 決して全てが名作ではなく、駄作も含まれているけれど、 それらも含めて初めてブコウスキーの存在感が確定するので、 頑張って読むべし。

パルプ
チャールズ・ブコウスキー
新潮文庫

ブコウスキーの探偵長編小説。と言っても探偵は何もせず、 ただ事件のほうが勝手に解決されていく。 最高傑作と帯にあるが、そこまでではない気が。 しかし面白い。

人狼(映画)
沖浦啓之監督
1999 日本

押井守原作のアニメーション映画。 スクリーンが涙でかすんでよく見えないっす。 わたし的にはかなりお気に入りの映画になってますが、 果たして誰もに薦めるかというと、ちょっと考えちゃうかも。 「王様のブランチ」に出てくる女の子達が 「とにかく全篇、暗い」としか評価できなかった、 と人から聞いた時には思わず失笑してしまったけれど、 一般の人にとってはまあそんなもんかもね。 かなり情感たっぷりの、しっとりした描写になっているが、 それとわかっていても自分が映画にのめりこんでいくのが止められないということは、 やはり私的にはいい映画ということでしょう。 押井演出だったらきっとこんなに情感たっぷりにはならなかったはずで、 それはそれで見たいけれど。

わかりやすい層に勧めるとするなら、 「銃を銃として本当に描いている」映画であるというのが大きなポイントかな。 銃は銃である以上、人を殺すことがその本質である。 そのことを、丹念で正確な描写によって見事に描いているのはさすが。


2000/06/07 11:30 p.m.

カウボーイビバップ Wild Man Blues
横手美智子
角川スニーカー文庫

さすがに横手美智子、そつがない。実にきれいにまとまっている。 ビバップを知ってる人なら楽しく読める。


2000/06/04 06:00 a.m.

太陽を盗んだ男(映画)
長谷川和彦監督
1979年・日本

原爆を作った教師と彼を追う刑事の物語。これは面白い。

中学の理科教師、城戸(沢田研二)はたった一人でプルトニウムを強奪し、 原爆を作り上げる。 しかし原爆を何に使ってよいかわからない。 どんな要求をすればよいか思いつかない。 彼は以前同じ事件に巻き込まれた刑事、山下(菅原文太)を相手に、 ナイター中継を試合終了まで行うよう要求する。
第一の要求は成功したものの、次の要求が思いつかない城戸は、 普段聞いているラジオ番組に電話をかけ、 DJのゼロ(池上季実子)が言った、ローリング・ストーンズ日本公演を求めることにする。 要求は成功。しかし、公開放送の場でゼロに自分が電話の男であると見破られてしまう。 ほんの一時だけの出会いであったが、城戸にひかれるゼロ。 執念で追う山下。核を持って逃げる城戸とゼロ。 猛烈なカーチェイスの末に対峙する二人の男は、街を見下ろしながら言葉を交わす…

ちりちりする焦燥感が実にいい。まだ世界を覆う倦怠感が生まれたばかりで、 その倦怠感への焦りが残っていた時代なのだろうか。 焦りやあがきが漉し取られ、もはや倦怠感だけが漂うばかりとなった今では、 この映画はどうとらえられるのだろうか…

風俗の人たち
永沢光雄
ちくま文庫

90年代のさまざまな性風俗をドキュメントしたノンフィクション。 AV女優へのインタビュー集「AV女優」より一話一話が短いので少し散漫な感じを受けるけれど、 それが「ありとあらゆる欲求をかなえてきた産業」をよく表しており、よい。 「おもしろて、やがて哀しき…」という感情が静かにしみてくる。

無理は承知で私立探偵
麻生俊平
角川スニーカー文庫

麻生さんのコミカル路線への挑戦。 ただのコミカル路線なら失敗していただろうけど、 今回は「不恰好でごつごつした、無理な頑張りが生むくすっとした笑い」 を描こうとしているので、 自分自身がジャンルに不慣れな点がむしろ良い効果を生んでいる感じ。

無敵のハンディキャップ: 障害者が「プロレスラー」になった日
北島行徳
文春文庫

プロレスをする障害者の団体を描いたノンフィクション。 弱く、美しくなく、あがきながら生きる姿をそのまま描いた見事な作品。 安易な同情はいらない。そう言う彼らがすがすがしい。 とてつもなく未完成な世界を作っている我々としては、読まなきゃだめでしょ。

ひかりごけ
武田泰淳
新潮文庫

どの短編にも共通して流れる、罪というテーマ。 人を食べるという罪を犯し、裁判の中で裁いている我々自身を告発することになる 「ひかりごけ」の船長の姿が、強い印象を残している。


2000/05/11 11:00 a.m.

並列バイオ
秋口ぎぐる
富士見ファンタジア文庫

いかがなものか。

と否定的な感想がやはり最初にきてしまう。 まず気になるのはその文体。文体を変える、というのは実に大きな冒険であり、 ましてや新しい文体を構築するというのは並大抵の力ではできないのだ。 で、彼の場合。

文章=単語の連続、ととらえる。だから、文章を読む/思考の断片の中に突入する ---この疾走感。

ってな文体を試みているのだけれど、 慣れるまで実に気持ちが悪い。この気持ちの悪さを狙ったのかもしれないが、 少なくとも普通の読み方はできない。 この文体に慣れてきたころ、自分の文章の読み方を意識してみると、 単語と単語の連なりを把握して読み飛ばしている感覚であることに気づく。 この読み方ってどこかでやってるな、と考えてみると、 何の事はない、Webの掲示板を読んでるときの読み方だ。 それも2ちゃんねる系のノイズの多い掲示板を。 こんな風に読み飛ばされるのが作者の望みだったわけ? 結局、短文重視による構成と体言止めを多用することによってリズム感を出す、 というアプローチ法と同じ効果(いや、気持ち悪いからそれより効果出てないかも) しか得られていないのはやはり失敗なのでは。 ろくごまるにやアルフレッド・ベスターみたいに、地の文は地の文できちんと書いて、 必然性があるところでシチュエーションの変化を示すために実験文体を使う、 というほうがずっと良かったと思う。

あと、人工言語(プログラミング言語のことね)の近くにいるわが身としては、 =、/、---(ダッシュ)の使い方に統一感を感じられなかったのも気になるところ。 たぶんフィーリングなんだろうけど、 いちいち気になっちゃうんだよね。 きちんと選択理由を作ったほうが良かったのでは。

内容的には、ガジェットだけが印象に残ってしまう。 第二脱出速度蛙は実にいい。 ラストの映像も好み。絵になる引き方をしているのは確かにうまい。 だがそれ以上はあまり印象が…。

あ、あと並列計算がもっとまともに取り上げられてたら少し点数甘くしたんだけど…(笑)


2000/05/02 3:00 a.m.
急に忙しくなったので、言葉が足りてません。

報復兵器V2
野木恵一
光人社NF文庫

タイトルにはV2と書いてあるが、 実際にはA4とそれを作ったフォン・ブラウンをはじめとする人々についてのノンフィクション。 フォン・ブラウンたちはロケットの研究としてA4を作り、 それが兵器として制式採用されるにあたってV2と名づけられた、 という経緯を説明すればわかるとおり、 タイトルは戦記ものの顔をしているが、実際にはロケット開発物語、 というわけ。

開発物語そのものは面白く読めたが、 やはり技術者の「責任」というものを改めて考えさせられる。 自分が開発したもので人が死ぬということ。 その責任はやはり自分にあるわけで、それを決して忘れてはいけない。

鳩笛草 (燔祭/朽ちてゆくまで)
宮部みゆき
光文社文庫

宮部みゆきお得意の、超能力者を描いた短編3本。 特異な能力を持った3人の女性が、その能力とどう向き合い、 どう生きていくか、を丁寧に描いた作品。良いです。

ロケットボーイズ(上/下)
ホーマー・ヒッカム・ジュニア
草思社

映画「遠い空の向こうに」原作。 アメリカの片田舎で、ロケットにあこがれた少年達の夢を描いた秀作。 しかも彼らは夢を見るだけでなく、それを現実のものにしてしまう。 小説は映画よりほろ苦く、 コールウッドの街が抱えた挫折などがよりあらわになり、 そのことが空高くのぼっていくロケットの姿に深みを与えている。 夢をかなえるということについて、大きな励ましを与えてくれる作品。 若いうちに読むべき。

猫の地球儀 その2: 幽の章
秋山瑞人
電撃文庫

猫の地球儀の完結篇。名作。 夢を見ることについて、「覚悟を決めろ」と突きつけてくる作品。 猫達が夢を食べて生きているように、 我々だって夢を食べて生きている。 夢を追えば何かが起きるし、あまりに大きい代償を払うことだってある。 代償を払うのが自分になるのか、周りの誰かになるのか、 この世界に住む「誰か」になるのか、それはわからないけれど。 だから起きるであろうことは常に考えねばならないし、 起きたことを決して忘れてはならない。 夢をあきらめることだってあるだろうし、それでもなお夢を追うことだってあるだろう。 いずれにせよ、私達は覚悟を決めなければならないのだ。

中盤以降はもう目が離せない。とにかく泣ける。読まねば損。

イエスタデイをうたって 2
冬目景
集英社

若いって素晴らしい!とか感じるさわやかな作品。 苛立ちも、焦りも、人への想いも、全てがみずみずしく描かれ、 見ているこちらは少し切なくなってみたりもする。


2000/04/09 5:00 a.m.

狗狼伝承: 夢幻剣士・リオ
狗狼伝承: 迷宮戦士・サガ
新城カズマ
富士見ファンタジア文庫

シリーズ3・4巻。 思わず読み終えてしまうのは安定した筆力のなせる技。 設定に燃えるとか、キャラに萌えるとか、 変身願望を満たせるとか、甘い世界にひたれるとか、 最近勢力を広げている「富士見系」と呼ばれる一連の小説群たちが持つ魅力には 確かにこういった「軽い」要素が大きくて、 それがいい作品を作るには絶対に必要な要素なのだけれど、 実は、作者達は非常に真摯な態度で多くの若い読者に向かって何かを叫ぼうとしているし、 読者はそれを受け止めている。 新しいひとつのジャンルが成長し、時代に受け入れられている、 そう感じさせられる作品。


2000/04/08 4:30 a.m.

魂の駆動体
神林長平
早川文庫

実に見事。お見事。 突然クルマの構造を勉強したくなるという副作用を持つ、 強力な小説。

自由に運転することのできる「クルマ」がなくなって久しい近未来世界で、 静かに、というよりはやんちゃに老後を送る二人の男。 彼らはある日、自分達だけのための「クルマ」を設計し、走らせようと試みる。 一方、人間がすでに世界から消えたはるかな遠未来で、 遺跡から人間達の生活を推し量ろうとする翼人の研究者は、 一人の人間を復元する。 復活した彼の魂が望んだのは、「クルマ」を作ることだった。

と、「クルマ」が失われた2つの世界の中で、 人間が「魂の駆動体」たる「クルマ」を復活させようとする、というのが大きなストーリー。 まずタイトルで完全につかまれる。「魂の駆動体」ですよ。 これほどに熱い、そしてやさしい言葉はそうそうお目にかかれるもんじゃない。 というわけでタイトルだけで「ああ、この本は絶対に面白い」と確信が持てるわけですな。

しかも読み進めるにしたがって、この言葉はますます深みを増す。 人間とは「魂を駆動して生きる」存在であり、その魂の駆動こそが喜びなのである、 と高らかに謳い上げる作者の人間への深い愛情が、 ひしひしと伝わってくるのだ。

魅力満点の、世界認識そのものをとらえた議論は神林長平お得意の展開。 機械と人間、というテーマもこれまた作者十八番のネタ。 こういったある意味おなじみの作品でありながらも、 なおこの作品が強く心に残るのは、 作者の人間への、機械への、魂への愛が作品にあふれているからだろう。

読了してから、もう一度表紙のイラストを眺めてほしい。 そこにいるのは、誰の、魂だろうか?

全ての機械好きの人に勧める。

封印再度
森博嗣
講談社文庫

今回は非常に良かったと思う。 壺の中に入った鍵と、その鍵を使ってしか開かない箱。 さて、どうやって壺を割らずに鍵を取り出し、再び壺の中に鍵をしまうか。 このトリックだけなら「なるほど」で終わっていたところ。 ここにもう一ひねり、 ミステリとしてのトリックであるところの「殺害方法の謎」と、 日本人の精神に訴えかける美の感性、 哀しくも美しい澄み切った涙の結晶のような美学とそれへの狂おしいほどの憧れを加えて、 深みのある謎解きを描き出している。 読み終わって再び「封印再度」というタイトルを眺めると、 ああ、すべてはここにあったんだなとすべてが完結するところが実に小気味よい。 "Who inside?" とかけているのは…ちょっとやりすぎかも。 犀川先生なら確かに言いかねない、 と苦笑させられるところがさらに小憎らしいところだが。

まあこんな感想は、萌絵と犀川の恋の行方にはらはらさせられ、 古臭い「日本人の美学」にやっぱり共感してしまう私が、 作者の術にすっかりはめられて言っている事なのであまり完全には信用しないように。


2000/03/26 7:00 a.m.

BATTLE ROYALE
高見広春
大田出版

去年の話題作だがずいぶん遅れてしまった。 昨日深夜23:00から読み始めて、結局今までかかって一気に読了。 とにかくものすごいパワー。

特殊な管理体制下にある大東亜共和国では、 国防のための戦闘実験という名のもと、 全国の中学3年生から1年に50クラスずつを無作為抽出し、 ルール無用の殺人ゲームを行っていた。 反則なし、最後に生き残った1人だけが勝者となる、 裏切り自由のバトルロイヤルゲーム。 修学旅行の途中でバスごと連れ去られた中学3年生たちは、 孤島で手に手に武器を持ち、血みどろの戦いを繰り広げていく…

というストーリーでもわかるように、 ストーリーはすべて1クラス42人が殺しあうだけで進行していく。 そんな異常な状況におかれた少年、少女達の反応は実に多様だ。 パニックに陥る者、他人を信じようと思う者、 そしてゲームに勝とうとする者。 弱気の者、良識派、そして狂う者。 驚くほどリアルに描き出される彼らの行動、心理。 恐るべき異常事態を、実に真摯に描いた作品なのだ。

作品中で死と共に描かれるのは、 彼らの中に交錯するそれぞれへの想いである。 極限状態で語られる、中学生の他愛もない愛。 だが、確かにそこにある愛。 読むものに痛みと、憤りと、やるせなさをもたらす彼らの愛。 むせるほどの血の匂いに包まれた愛の姿が、 読んでいる私の心を打つ。

そして、読み終わった私の耳にかすかなささやきが聞こえてくる。
「なあ、生きてるってどんな感じだい?」
私はなんと答えられるだろうか。

覚悟を決めて、読むべき、作品。


2000/03/22 3:30 a.m.

HANA-BI(映画)
北野武監督
'97年/日本

すみません、まだ見てませんでした。 というわけで今さらながら鑑賞。 確かに良い映画。ソナチネとかも嫌いじゃなかったんだけど、 やっぱりシンプルなラブストーリーの力は強いね。 たけし演じる元刑事、西の無口っぷりはちょっとやりすぎ感も感じるんだけど、 岸本加代子の演じる妻が無口なのは、 ラストシーンへの伏線だったので非常によく「効いた」設定だった。

素直に泣けます。一人で見てみて。

ドグラ・マグラ(上)/(下)
夢野久作
角川文庫

う〜ん、「一大奇書」と語られる理由がわかる。 前半部分が非常にかったるいので、上巻を乗り切るにはかなりの覚悟が必要かと。 下巻に入ってからはわりと面白く読めたんだけど。 上巻がつらいのは、 今の認知科学とかの知識ならわりとあたりまえになってたりすることが 一種偏執狂的に記されてたりするせいもあるんだけど、 書かれた時代を考えると確かに夢野久作はすごいかも。 まあ話のタネに、お好きな方はどうぞということで。


2000/03/20 1:30 a.m.

遠い空の向こうに(映画)
ジョー・ジョンストン監督
'99年/アメリカ

昔少年だった大人には、ぜひとも見てもらいたい傑作。

東西冷戦のただなかである1957年、 ソ連は人類初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功した。 つぶれかけた炭鉱しかないアメリカの片田舎の街コールウッドで、 主人公であるホーマー・ヒッカム少年は夜空を流れるスプートニクの光に魅了される。 そして、彼は友人を巻き込み、 裏庭で手作りロケットの打ち上げを試みるのだが、結果は大失敗。 しかし、彼のロケットへの情熱は衰えることなく、 知識と経験を増やしながら彼らはロケットを作りつづけた。
コールウッドでは、 スポーツで奨学金を得て街を出て行けるごく一握りを除いたほとんどの少年が、 炭鉱で働くという道を選ばされる。 ヒッカム少年の父親もまたそうして炭鉱の男として誇りを持って生き、 息子にもこの仕事を選んでほしいと考えている。 しかし息子はロケットに熱中し、宇宙を目指すために街を出るという。 二人の対立と和解を描きながら、物語はクライマックスへと向かう…。

原作がNASAの技術者自らの実話を元にしているだけに、 科学少年達のロケット作りは実にリアル。 さらに、満天の星の中を音もなく翔けるスプートニクの光の美しさ、 街から遠く離れたボタ山の上に 「ケープ・コールウッド」建設を宣言するシーンの言いようもない高揚感、 そして幾度となく繰り返される打ち上げ失敗と その結果として得られる彼らのロケット技術の進歩の心地よさ等、 実に心躍るシーンが満載されている。 また、斜陽の産業である炭鉱にすがって生きている街の生活、 その現実の象徴のような存在の父親との親子関係が、 深い陰影となってこの話にどっしりした厚みを与えている。 とにかく一度見てみるべし。

ラストシーン、 やわらかそうな、しかしはかなげな雲の浮かぶ青空に、 白い煙の跡をまっすぐに引いて、 高く、どこまでも高くのぼっていくロケットの姿が心の奥を揺さぶる。 泣けます。

ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)/(下)
リチャード・P・ファインマン
岩波現代文庫

あんなに有名なのにまだ読んでなかった…今回文庫になったので購入。 もっとも岩波現代文庫は文庫にしては値段が高いから気楽に買えるって感じは薄れるけど。 内容は、ファインマン先生の好奇心いっぱいのエピソードが実に楽しいエッセイ。 基本的に楽しいだけなのだが、 最後に置かれた一章、キャルテク卒業式式辞の文章には参った。 「科学的良心をすててはならない」というファインマン先生の言葉は、 科学に携わる我々にとって実に重く響く。 学生は、最後の章を立ち読みしてでも読んで戒めにすべし。


2000/03/16 23:00 p.m.

シュリ(映画)
カン・ジェギュ監督
'99年/韓国

いいアクション映画。アクションとして見ておいて損はないでしょ。 ラブストーリーとして見るには、 ちょっとストーリーがシンプルすぎる気がするんだけど、 このシンプルさは長所でもあるので、 まあ何とも言えないはず。 すなおにクライマックスでは泣けるからね。 南北朝鮮統一の悲願、という味付けは、 当事者である韓国の人が語っているから救われているけど、 やや掘り下げが足りない感じ。

銃器の描き方、特殊部隊の動き等は見事。 主人公たちがヘリから降下するシーンも実にきれいにいっているし、 クライマックスで大統領を守るSPたちの動きにも感動。 その手の描写は、かなりの水準です。 何で日本映画でこれくらいの描写ができないかな… あ、シナリオ的にはおかしいところも多いけど。 特殊部隊の隊員の彼女の過去を調べてないなんて、 そんな甘いことが…

ともかく、金返せって気持にはならないでしょう。


2000/03/15 4:30 a.m.

マグノリア(映画)
ポール・トーマス・アンダーソン監督
'99年/アメリカ

静かに心の中に何かが広がり、そして何かを残して引き潮のように去ってゆく、 そういう作品。 尺が長い(3時間を超える!)、エンタテイメント性がない、 というわけで誰もが見て面白いと感じる映画ではないと思うけど、 覚悟を決めた人は見ておいて損はないのでは。 話は、さまざまな状況におかれた登場人物たちのある一日を丹念に追うというもの。 死にかけた名プロデューサー、年若いその妻、 良心的に看護するホスピスの看護士、 そして女を落とすハウツー本を書いてのし上がったプロデューサーの息子。 また、プロデューサーが手がけた長寿クイズ番組の司会者はこれまた骨癌で余命幾ばくもなく、 ヤク中のその娘とは絶交状態。 精神状態が不安定な彼女を訪ねた善良な警官は彼女に一目ぼれ。 そしてクイズ番組で勝ち星を伸ばしている天才少年と、 かつて同じクイズ番組で天才少年と呼ばれ、現在は失業して盗みに入ろうとしている男。 これだけの登場人物の、それぞれの一日が絡み合いながら描かれていくさまは、 非常にリアルで素晴らしい。 予告によると、これらのエピソードがすべて最後に1つになる、とあったけど、 それは言いすぎでしょ。 ただ、すべての登場人物の哀しみ、後悔、焦り、憎しみがそれぞれのエピソードからあふれ、 痛いほど伝わってくるのが見事だと思う。

この話の底に流れるのは、 「信じられないかもしれないが、確かにそれは起こった」という言葉。 ラストシーンのびっくりするような出来事だって、 確かにおきたこと(らしい)。 世界には色々なことがおきているし、人はその世界の中で迷ったり哀しんだりしながら、 それでも生きていく。 後悔、許し、癒し、そして希望。 決して、はっきりと明るく輝いているわけではないけれど、 「それでも、確かに、希望はそこにある」のだ。

冬のオペラ
北村薫
中公文庫

相変わらず見事な作品。 まずしびれるのは本作の名探偵である「巫(かんなぎ)弓彦」の言葉。

「名探偵はなるのではない、存在であり、意志だ」

実にしびれる。彼の職業がそのものずばり「名探偵」であるところもすごい。 まずこのキャラだけで一本とられるのだが、 格調の高い文章と日本の美意識を背景にした舞台もよい。 安心してどうぞ。

DEJA VU
藤原カムイ
角川書店

藤原カムイの初期短編集の凍結版。 むやみに難解な、肩に力の入った詩的表現が、 確かに当時の雰囲気を伝えてくる。 最後のアンドロイド物は結構面白かった。

やけくそ天使 2
吾妻ひでお
秋田文庫

相変わらずそっち系全開の不条理マンガ。 読んでる自分が少し慣れてきたのか、1巻のときより胸焼け感が少なかった。 時々作者の孤独さがにじみ出て痛くなる回が出てくるのは、ちょっと切ない。

シリウスの痕 1
高田慎一郎
角川書店

戦いのための人間型フレームに脳だけ入り、 ただ戦闘意思のみ残された「闘犬」となって、連戦連勝してきた少女。 しかしその少女が記憶と意思を取り戻し、逃げ出したところから話は始まる。 逃げ出したときの設備では脳を7日間持たせるのがやっと。 その7日間を、闘犬場の刺客たちに狙われながらも人間として生き抜いていこうとする彼女。 というお話。結構いけます。 絵はシリアスパートもお笑いパートもどっちもかわいいし。 「人間じゃない」系に弱い方には、特にオススメ。

MONSTER 13
浦沢直樹
小学館

安定した完成度を保つ作品。 クライマックスが常に続いている感があるので、 一度に読む人は苦しくなるんじゃないか、などといらぬ心配をしてみたりする。

ヨコハマ買い出し紀行 7
芦奈野ひとし
講談社

相変わらずゆったりした時間が流れる気持ちのよい作品。 今回はカフェ・アルファに大事件もおきたりして、 少しずつアルファさんを取り巻く状況も変わってくる。 黄昏の時代を生きている人々と、 そこで人よりも長く世界を見つづけるアンドロイドたちの「心」が、 静かに胸を打つ。読んでおきましょう。


2000/03/12 6:30 a.m.

魔法飛行
加納朋子
創元推理文庫

お見事。前作「ななつのこ」と同様、 日常生活の中で出会う不思議をさらりと解き明かし、 読み手の心にほのかなあたたかさを残す短編集。 特に心に残るのは表題作でもある「魔法飛行」という作品。 空を飛んで君に会いに行く、そんな魔法を実現しようとする男と、 その魔法を信じたい、そうじっと待っている女。 そんな2人のメッセージが、相手に届けという祈りを込めた言葉が、 読んでいる私にも届いてくる。 また、収められた短編3編の間にはさまれた主人公への不可解な手紙が、 最後の短編中で解き明かされるという構成も面白い。 最後の短編全体がこの短編集のクライマックスだが、 この緊迫感、焦燥感はたまらない。 読んで損なし。

ところで、この作品の全編を貫いているのが 「この思い、伝われ、届け、飛んでゆけ」という祈り、 つまり「誰かへのメッセージ」というモチーフ。 本編でも少し近い分野に触れられているし、 SETIの心を伝える入門書としても推薦できるかも。

言壺
神林長平
中公文庫

言葉をテーマにいくつもの作品を展開してきた作者ならではの短編連作集。 言葉によって思考する機械がネットワーク化され世界に広がり、 やがて言葉によって世界が変容させられていく、 そんなプロセスをさまざまな時点で描いた連作集となっている。 とにかくその切り口が見事。 言葉のエントロピー、言葉の森、といった着想はもう 「参りました」としか言いようがない。 新たなる「言葉使い師」の誕生を描く「栽培文」が特にいいかな。 そして最後の「碑文」がまた深い余韻を残してくれる。 読むべし。


2000/02/28 4:00 a.m.

ビリーバーズ 2
山本直樹
小学館

新興宗教に入信し、 無人島で奇妙な共同生活を送る男女の狂った生活を描いたこの作品、 この巻で完結。 狂気と正気を巧みに織り交ぜ、読者の視点を常にあやうい境界に保つ腕はさすが。 偽りのエデン、かりそめの楽園の描写も、 長年エロをやってきた筆者でなければこれほど深く胸に届くことはないのでは。 見事。

ラストシーン、窓から見える夕焼けが深い余韻を残す。まずは読んでみるべし。

吉富昭仁秀作集1: サイファ戦記BIT
吉富昭仁秀作集2: ラブラブキュート
吉富昭仁
メディアワークス

EAT-MANの作者の未収録作品集。 コラムで本人も書いているが、打ち切り作品集でもある。 内容はおバカが強い。EAT-MANをイメージするとアウト。 表紙が表紙なので間違えないと思うけど…。 全般的に未熟な感は否めないので、好きな方だけどうぞ。


2000/02/26 3:00 a.m.

戦争を演じた神々たち[全]
大原まり子
早川文庫

タイトルどおり、戦争を演じるものと戦争により変わるもの、 戦争の行使する力の源とその向かう先、 破壊と創造、そして戦争を見つめるものたち… といったイメージでつづられる短編集。

傑作。

特に女性、女神のイメージをはらんだ作品が絶品。 楽園の想いで、カミの渡る星、世界でいちばん美しい男あたりが特にオススメか。 楽園の想いでの終わり方なんか涙が出る。 他に、女と犬、シルフィーダ・ジュリア、ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)もいい… と挙げていくと半分以上になってしまうのでここまで。

花右京メイド隊
もりしげ
秋田書店

ごく普通のラブコメ。んが、描いているのがあの「もりしげ」であるのがポイント。 もりしげが普通の話を描くなんて…。 連載開始3回目くらいまではどうしていいかわからない感じがにじみ出て痛々しい。 この本の中盤を過ぎると、何か吹っ切れたのか、慣れたのか、 精神状態が変化したのか、まあ原因は不明にせよとにかく話が安定。 もりしげがどんな気持ちでこれを描いているのかはぜんぜんわからないけど、 今はとにかくこのメイドさんたちには幸せになってほしい…。 背景情報がない人が読むとどうだろう、「ちょっといいラブコメ」くらいか。

地底人の逆襲
いしいひさいち
双葉文庫

ずいぶん昔の作品の文庫化。手練だね〜。

破壊魔定光 1
中平正彦
集英社

一部で評価が高いらしいので購入。 宇宙を流されている凶悪な生命体である「流刑体」2000万体が偶然地球を直撃、 流刑体を監視していたデータ生命と偶然コンタクトした主人公は、 流刑体との戦いに巻き込まれる、というのが基本のストーリー。 流刑体を殺すのか、救うのか、どうスタンスを取っていくかという苦悩は、 主人公の「スカッとくるかどうか」という言葉で明快に定義されるのが心地よい。 が、全体には「ちょっといい格闘もの」程度か。 謎の転校生にして強力な監視者である「神代やよい」が登場したところで、 引きで終わっているのが気になる。

砂ぼうず 6
うすね正俊
アスペクトコミックス

安定した砂漠ガンアクション。

妖の寄る家: 宇河弘樹短編集
宇河弘樹
少年画報社

表題作は、妖のついた古道具を引き取ってくる古道具屋の主人公と、 彼に恩を受けて手伝いをしている気の強い猫又の少女の話。 ほか、コメディ、ハードアクション、ハートウォーミングな魔法使いもの、 と多彩。基本的に「いい話」だけど、おバカなのも…。

THEビッグオー 1
原作: 矢立肇/絵: 有賀ヒトシ
講談社

アニメ版を見てないのでまずコミックスでアタリをつけようと思って購入。 デザインや画作りは独特で、わりとよさげ。 しかも、やっぱりドロシーは期待できそう。 う〜ん、アニメ版も買うのか?

さんま
目黒三吉
シュベール出版

イカれたセンスでイカしたマンガを描く目黒三吉の作品。 成年コミックスだが、実用性は…低いと思うな〜。 もちろん不条理ものとして十分楽しいけど、 想像以上に真摯に叫ぼうとしているものが多かった。要注目。


2000/02/12 6:00 a.m.

20世紀少年 1
浦沢直樹
小学館

シュールで、期待できそうな話。30才を超えた「少年」達がリアル。

犬狼伝説 完結篇
作:押井守、画:藤原カムイ
角川書店

もうひとつの戦後、日本に生まれた首都警特機隊、 通称ケルベロスの歴史を描いた作品。 その強大な戦闘力から危険視され、 首都警内部からも、自衛隊からも、市民からも望まれず、 その歴史的使命を終えて消えつつある特機隊。 犬として生まれ、犬としてしか生きられなかった男達、女達の生き様を見よ。

十兵衛ちゃん
作:大地丙太郎、画:むっちりむうにい
ソニー・マガジンズ

菜ノ花自由は女子中学生。だが突然現れた侍に渡された「ラブリー眼帯」をつけると、 二代目柳生十兵衛へと変身してしまう。 そして300年前の遺恨にかられて襲いくる刺客たちと死闘を(ちょっとだけ)行う…。 と、シナリオだけ見るとアクションみたいだけどそういうわけでもないので。 まあファンなら買っておいても。

COOLDOWN
伊達将範
電撃文庫

突然武装集団に占拠された高校で、 偶然難を逃れた問題学生氷室克樹はたった一人で戦いをはじめる、 というシンプルな話。ダイ・ハードだもんね。 電撃文庫らしくオカルティックな味付けやラブストーリーが絡んでるけど、 話的にはそこそこ。 もう少し抑制した文章だとよかった気がするんだけど。好みの問題かな〜。


2000/02/11 6:00 a.m.

KaNa 2
作: 為我井徹 / 絵: 相楽直哉
ワニブックス

乾いた感じの絵がいい。 緒方剛志に代表されるように、最近流行ってるみたい。 ストーリーは、主人公である中学生「安部祐二」が 人と妖の「混」である「哀」と出会い、混達との戦いに巻き込まれていく、 というもので、わりとオーソドックス。 1巻は哀がかわいかったけど、2巻は戦闘メインで萌えなかったし…

辰奈1905 トミコローツ戦記
鬼頭莫宏
株式会社ビブロス

独特の陸戦歩行兵器が発達した世界での架空戦記もの。 フルカラーで、 モデリングしたCGの兵器と鬼頭さんの手描きの絵が組み合わせられている。 話は…戦士である子供達の生き方がいいけど、それくらいかな。

夏目房之介の漫画学
夏目房之介
ちくま文庫

比較的古めの漫画の歴史や、体のパーツや線についての作家論、 コマ割り論等、わりとわやくちゃに詰め込んだ感じ。 資料として。

やけくそ天使 1
吾妻ひでお
秋田文庫

不条理系作家吾妻ひでおの有名な作品… しかしひたすら不条理エッチで胸焼け。資料に。

あずまんが大王 1
あずまきよひこ
メディアワークス

高校4コマ漫画。面白すぎ。しかもかわいい。買っとけ。

アフタヌーンシーズン増刊
講談社

沙村広明(無限の住人の人ね)の「涙のランチョン日記」が当たり。 ギャグとアクション、少女漫画とやくざ漫画のバランス具合が絶妙。

ますびえ
須藤真澄
アスペクトコミックス

須藤さんのフルカラー画集。ゆずメイン。 未発表や書下ろしは数点。ファンなら。


2000/02/07 10:30 p.m.

大日本天狗党絵詞: 1〜4
黒田硫黄
講談社

せつないお話。傑作。

昔、日本には天狗がいた。 幾多の術を使い、空を飛び、姿を変え、 孤高に、自由に生きていた。 そして今も、天狗は日本にいる。 たとえ残飯をあさろうとも、 たとえ閑古鳥のなく古道具屋に身をやつそうとも、 それでも彼らは日本にいる。

主人公「しのぶ」は幼いころ天狗の「師匠」に出会い、 そのまま天狗になる。 天狗としてやっと空が飛べるようになった日、 彼女は自分の代わりに自分の家にいる「しのぶ」を見る。 師匠が作った身代わりの泥人形であるはずの彼女は、 しかしいつのまにかすり替えられていた。 すり替えを行った「おじ様」は、 泥人形であるしのぶを守るため、二人で天狗から逃げようとする。

時を同じくして、天狗を引き寄せる体質を持つ「幸南」を見つけた師匠は、 彼女を使って同士を集め、伝説の天狗である「Z氏」を呼び出し、 日本に天狗の国を作ろうと画策を始める。 曰く、天狗は偉大であり、その偉大さを人間は尊ぶべきであると。 しかし、人間社会に戻りたがる幸南を見て、 彼女を愛する風来の天狗「比良井」は仲間を裏切り幸南を逃がそうとする。

と、ここまでが一通りの人間関係の説明で、 これからZ氏が現れて日本がとんでもないことになっちゃったり、 天狗のしのぶが徐々に帰る場所をなくしていったりと、 物語は中盤から終盤へ向けて盛り上がっていくのだが、 まあそれは読んでもらうとして。

粗筋を見ても感じられる通り、結構シュール。 独特の質感を持つ筆ペンの絵を一緒に見ると、かなりシュール。 この舞台の面白さ、そして天狗というキャラクターの持つ存在感は、 もちろんこの漫画の大きな魅力だ。 しかし、それ以上に全編にあふれるのが人間のドラマ。 二人の「しのぶ」。天狗の「しのぶ」と「師匠」。 泥人形の「しのぶ」と「おじ様」。 「幸南」と「比良井」。 それぞれの想いが、「愛」が、重なりあい、交錯し、すれ違ってゆく。

ラスト4ページは圧巻。ラスト1話全体も圧巻。

しのぶはどこへ行くのか。もう一人のしのぶはどこへ行くのか。 師匠はどこへ行くのか。比良井はどこへ行くのか。

天狗はどこへ行ったのか。

絵で嫌悪感を覚えるって人以外はまず読んでみるべし。 でも表現として新しいってだけで絵もうまいと思うけどな〜。

月と炎の戦記
森岡浩之
角川スニーカーブックス

まあごく普通の日本神話もの。 うまいとは思うけど、とりたててどうこうってことは…

ヘヴンズ・ルール2: 白鳥の笑う夜
後池田真也
角川スニーカー文庫

近未来アクション。銃弾バリバリのアクションじゃなくて、 ハードボイルド路線。 これまたうまいとは思うけど、特記事項無し。 ザ・スニーカーに掲載された中編が入ってるけど、 どうも長さが中途半端なんだよね…


2000/02/04 3:30 a.m.

猫の地球儀: 焔の章
秋山瑞人
電撃文庫

プロローグで撃沈。巻置くあたわず、とはまさにこのこと。

トルクとは、宇宙にぽっかりと浮かんだ島である。 ロボットと、ガラクタと、猫たちを放り込んだ茶筒、それがトルクのすべて。 そこに、一匹の黒猫が現れる。名を幽。 秘密を守って45年眠りつづけたロボット「クリスマス」を目覚めさせた張本人であり、 そして、37番目のスカイウォーカーでもある。

一見「萌え」を狙ったキャラであるクリスマスの登場シーン。 もちろん萌えるのだが、もうどうしょうもなく「泣けて」仕方がない。

トルクにおける力、権力、そして死の象徴である「ドルゴン」の地位に挑戦する 一匹の白猫。名は焔。そして彼の強さにあこがれ、 彼を無邪気に慕う子猫、楽。

異端であるとされ、見つかり次第殺されてしまうスカイウォーカーである幽と、 破壊と死の象徴であり、怪物だと周りから思われている焔。 この2匹が出会うことで、トルクを揺るがす物語が始まる…

幽と焔の男くささがたまらない。いいもん見せてもらった、 そう感じられる。 そして、一途で無鉄砲で憎めない楽の存在感。 無邪気で、他意のない楽の言葉は、 それが彼女の心から出た言葉だけに、なおいっそう鋭く幽の奥深くの痛みに触れる。 これまた泣けるシーンの1つ。

また、科学的な考証もさりげなく正確に行われているところがマル。 挿絵(椎名優)も聞いたことない人だったけど、非常によい。 萌え、泣き、熱さが実にバランスよく配分されていて、 文句なくオススメでしょう (まあ萌えはその方向に行くよ行くよと見せかけて、実はそれほど強くないんだけど、 その節制がいい結果を出している、という意味ね)。

いよいよ電撃文庫が侮れなくなってきた感じ。 とりあえず、早く続刊を。


2000/02/02 3:30 a.m.

やみなべの陰謀
田中哲弥
電撃文庫

電車の中で読んでなくてよかった。とにかく面白い。 変な顔をして笑いをこらえてこのひと変なんじゃないとか思われるくらい面白い。 そして泣ける。読み終わって、すべてが収まるべきところに収まったと同時に、 なぜか涙がこみ上げる。

構成は、割とばらばらな内容の短編が5つ集まったように見せながら、 最後の短編でそれらが1つの流れの中にきっちりと組み込まれるという、凝った作品。 作中の人物の言葉ではないが、 前の話があるべき場所にぱちりぱちりと音を立ててはまっていくような快感がたまらない。

今のところ田中哲弥さんの最高作。もうこれ以上のは書けないだろう、 と言っておくと誰かが作者にたれこんで作者が発奮するかもしれないので書いておく。 これ以上のはあいつには書けないだろう。


2000/01/30 4:30 a.m.

ガープの世界(上・下)
ジョン・アーヴィング
新潮文庫

長い、たるい!でも何か心を打つものがある。 それは何か世界の姿を、 作中の貧しく正直で素朴なジルシー・スローパーが言うところの 「ほんとォーのこと」を切り取って見せているからだろうか。

この作品の構成、情報の明かし方、表現の仕方なんてのを見てると、 作者がものすごく気を使ってこの作品を書いていることがよくわかる。 見習うべし。

それはそうと、この本をエレン・ジェイムズへの「萌え」で見るなんてのは… 「最後のほうだけでいいじゃん」なんて言うのは… やっぱだめですかそうですか。


2000/01/15 6:30 a.m.

AV女優
永沢光雄
文春文庫

AV女優のインタビュー集。 いっしょうけんめい(一所懸命ではなく!)に、 だけど肩ひじ張ることなく生きていくんだ、 そういうことを「すとん」と心に届けてくれる一冊。 ノンフィクションには、こういう静かな炎のような力がよく似合う。


2000/01/05 1:30 a.m.

五体不満足
乙武洋匡
講談社

障害を持つ、ということについて、きわめてまっとうな意見をまとめた一冊。 まっとうすぎて、読んで目から鱗が落ちるような経験は得られないんだけど、 まあ読むのにさほど時間もかからないし、読んでおきましょう。

女神の誓い
マーセデス・ラッキー
創元推理文庫

正統派ファンタジー。外国の人が書くファンタジーは、 舞台となる時代の文化が身近に残っているせいか、 やはり日本人の書くものより作品世界の「におい」のようなものが濃い。 作品世界の細部のちょっとした描写がリアルだ、ということの積み重ねなんだろうけど、 この格差はなかなか埋まらない。

この作品、確かに面白いんだけど、ちょっと話の進行が淡白すぎる気もする。 一つ一つの話をもっとたっぷり記述してもいいのに、ちょっと肩透かし、 という場面が何度かあった。くどい話よりずっと好感が持てるけど。 淡白なのは、外国の作品にはよくある気がするな…。


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