強烈。避けられません。 おかしさのあとにほろり、ではなく、 くすっと笑うのとまったく同時にいとおしさとやりきれなさとはがゆさと その他もろもろが一気に押し寄せてくるのはもう勘弁していただきたい。 一人でこっそり読みましょう。
非常に鮮烈なストーリー。一読の価値あり。
相変わらず(と言っても過去に出したものの再刊なんだけど)お見事な一冊。
う〜ん、何かちぐはぐな印象。 笑わせようとか、萌えさせようとか、そういう意気込みが前面に出すぎているのだろうか。 あまり感心しない。2巻も買ってあるので読んでみますが。
なんということだ。
このままでは、彼女が、あまりにも、
あまりにも哀しすぎるではないか
「三月は深き紅の淵を」という本を巡る短編集。 とにかく凝っている。工芸品を見るような感覚。
全体の構成は四部作であり、一冊の本をモチーフにまったく異なる話が展開される。 第一章、第二章はきわめて正統なミステリ。 第三章も正統派だが、死んでしまった2人の少女の心の軌跡をとにかく鮮やかに、 そして痛々しくも美しく描き出した、 という点で名作と呼ぶに値する一品となっている。 第四章は、この短編集全体の構成を「作品内作品」として取り込んだものであり、 読者がどこから何を眺めているのかを見失う、 だまし絵のような作品。 四作全体が1つの作品としてまとまるというよりは、 それぞれの魅力が残ったまま、次々にたち現れてくるような印象を残す。
本、物語、というものに対する想いがにじんでいるところがまたよろしい。
本への想いつながりということで、この一冊。 R. O. D はOVAとコミックスにもなっており、 OVAは傑作。第一巻の初回特典を取り損ねたのが実に悔しい。
で、小説の方は、非常に楽しい作品。 本が好きな人にとっては、 自分の願望が実現されているようで実に面白いはず。
大原まり子のシリーズコメディSF。 「お姉さま」に大ウケする要素満載だが、 私が読んでも結構面白かったり。 登場人物が屈折しまくってるところがいいね。
上の銀河郵便シリーズ第二弾。長編。 ややコメディ色が弱いか。 イルの心情や内面がよくさらけ出されている点はマル。
読み始めたらとまらない。2日かけて一気に読了。
人口1300人ほどの孤立した山村で、 夜な夜な「何か」が徘徊し、死を撒いていく。 新種の伝染病を思わせる死の連続。 山村に残る「起き上がり」という「甦る死体」の伝説、そして吸血鬼伝説。 事態の本質が見えないまま、 ただ死だけが着実に山村の人を山へと引いてゆく…。
真相を突き止めようと行動していく上巻はミステリのような面白さ、 そして真相が明らかになる下巻はホラーとしての面白さが満載。 主人公級の2人、僧侶の静信と医師の敏夫の双方に感情移入させられるところが実に痛い。 根底を流れる「神に棄てられた存在」というイメージが、これまた良く効いている。
そしてなにより、沙子萌え。
正統派ファンタジーというかSFというか、 とにかく美しい作品。 非常にロマンチックな物語を、 透き通った印象の世界観の中に描いている。
人間魚雷「回天」で特攻する隊員の手記。 筆者の中で変わらなかったもの、 変わってしまったものがありありと浮かび上がっており、 実に興味深い。
ほの痛い。共感系の小説。 今という時間の味わいが実に鮮やかに伝わってくる。
相変わらず。コンスタントなできばえという印象。
これまた相変わらずといったところ。 2巻の方がやや「どうかな」という感じがするのは、 筆者は短編だと話の運びが甘くなるということかも。 (3巻は1冊全体使って1つの話なので)
さまざまな「いっちゃってる」人びとについてのコラムのごった煮。 かなり興味深い。
小学生がロケットを打ち上げる、という難題を、 技術的に不可能ではない、というレベルまで裏づけをとって描いている作品。 ラストシーンはもう…。 傑作。必読。
泣けるサイバラが前面に出た作品。 どうしようもなく傑作。
これも傑作。 一筋縄ではいかない面白さ。 なんか、ツール・ド・フランスとかファンになっちゃいそうなんですけど。
む?なんだかやや面白さが減ったような…。 助手が主人公の回が増えたせいで、以前の「底が見えない」 こわかわいさが薄れてしまったからだろうか。
古い学校を舞台に、変わり続ける私たちの「時間」を、 少女を通して描き出そうとした作品。きれい。
人間が種として限界に達しつつある未来を描き出そうとしている意欲作。 続刊が実に楽しみ。 エロ(と言っても成年マークはつかない)ですが、ぜひ一読をおすすめ。
前々から気になっていた作者だったが、 今回タイトルにつられてついに購入。 これはあたり。 笑いの話はひたすら面白い。 ちょっとセンスが独特なので人を選びそうだが、 つぼにはまるとくせになるタイプ。 さらに泣かせがちゃんとしているのがまた素晴らしい。 これも成年マークがつかない程度のエロなので、 周囲に若干気を配りつつ読むべし。
というわけで既刊を買えるだけ購入。 この4巻は古いものから順に並んでいるのだが、 新しくなるにつれ良くなっている印象。 笑いはどんどんパンチが当たる確率が上がってくる。 泣かせは、「くらげ」収録の連作「はらいそ」のような直球勝負のものもよいのだが、 直球だけだと若干深みが足りない感じ。 しかし、筆者の持ち味の「少しはずした感覚」が付加されると、 これはかなり強烈な印象を残す。 一番印象に残っているのが「かえで」中の「ハキダメエレジー」のラストシーン。 ラスト2ページまででぐっと読み手の心情が盛り上がってきて、 いよいよ、というところでページをめくると「すこん」とはずされる。 ただ、そのはずし方が絶妙で、一瞬涙が引っ込んだあとで、 じわじわと哀しみがやってくる。これは見事。 同じく、「かえで」中の「仮借ナキチカラ」もラストが秀逸。
ところで、私が初めて筆者を意識したのは「かえで」の表紙だった。 「ハキダメエレジー」に出てくる女の子なのだが、 メイド服でほうきを持ってあたふた、そして2個ばかり部品を落としてる…。 実に凶悪。直感を信じてこのときに買っておくべきだった。
あ、それからこの4冊は全て成年コミックなので、ご注意を。
学会で京都に行くので半年以上放っておいたのを掘り出す。 流行るだけあって、確かに面白い。軽いし。
ちなみに、京都ではちゃんと晴明神社を堪能してまいりました。
アメリカを主とした疑似科学のサーベイ。 良くまとまっている。
私的には判断を保留。 頑張っているのだけれど…。 というか、格闘小説が好きな人は好きかも。
1巻で判断を保留したので2巻を読む。 う〜ん、私はやっぱりこういう全編格闘というのは評価しないのう。 というわけで自分の中ではランクダウン。
相変わらずの面白さ。
「かめくん」で大注目した作者の作品。 これまたヒット。 道具立ての面白さと人々の描写のどちらもが素晴らしい。 読んで損なし。
この作者、かなりあざとく上手い。これはほめ言葉。 えびのエピソードなんか、 「来るぞ来るぞ」とわかっていてもやっぱり読むと心に突き刺さってくる。
ひたひたと心にしみてくるような堕落文学。 私の弱いジャンル。おすすめ。
最初の奥さん、アーリーンとともに暮らした日々を記した章は傑作。 なんともおかしく、そしてほのかに悲しい。 直球ずばりの「科学の価値とは何か」も名文。読むべし。
人の出入りがない深海の海底施設で起きた密室殺人事件を扱ったミステリ。 普通に面白い。 もはや他の人間との距離に関係なく暮らしていくことが出来る人間、 という話がスパイスとして効いている。
正統派にして、実に面白い。 「もし、立方晶窒化炭素がほいほい出来たなら〜」というたった一つの仮定から、 この世界がどんどんと広がっていくさまを見事に描いている。 正しく「一発当てる」ことの素晴らしさを書いているのも実にいい。 ラストがなんだか肩すかしを食ったような物足りなさを覚えるけれど、 全体としては大満足。 若い人に読んでもらいたい。ぜひ中学生、高校生に。
実に丁寧。次へ次へと読み進めずにはいられないうまさがある。 主人公は、行方不明になった友人の葛木志保という女性を探すために、 古来からの奇妙にして恐ろしい伝統が生きる島へと足を踏み入れる、 というのがストーリー。 この、名前とほんの少しの思い出のシーンしか語られない志保という女性が、 読み始めた最初から妙に気になって仕方がない。 なんだかいい女なんだよね。
ものすごく「うまいっ」という感じではないのだけれど、 なんだか妙に心に残る作品。
オオウミガラスというアイデンティティを奪われ、 改造ペンギンという造られた生物にされてしまった串P。 その彼がアイデンティティを保つために戦い続けるというかなりトんだ作品。 要注目。
少女ニナとカメラのライカの物語。 ニナとライカの魅力をさわやかに描き出したさまはマル。
「少女は常に美しく、男は永遠に少年」 という帯の文句に惹かれて購入。 少年はどうでもいいんだが(笑)。 中身は「少女」、「少年」を鮮やかに描いた短編集。 やはり、少女を描いたものの方が圧倒的に良いと私には思われる。 「僕の夏は泳げずじまい」、「雲につき出る」とあたりがよろしいかと。
あ、ニナライカの絵を描いた人だったのね。
やたらと好き。だけど人に薦めるにはためらいが。
ちょっとした事情でずいぶん更新できませんでした…
これは見事。 ミステリとしてのトリックもなかなかだが、 それよりは西之園嬢と今回初登場の笹木というおじさんとの 「恋」が逸品。 二人の距離が次第に縮まるさまにはらはら、はらはら、 そしてラストの大どんでん返しに唖然。 完全にキャラ萌えの小説になっているけれど、私は強く支持する。 実にさわやかな恋愛小説だった。
ヘリで飛ぶ、そのことの素晴らしさを描いた冒頭の部分は見事。 この世界に思わず引き込まれる。 ストーリーが進んで、 話がやや散漫に、地に足のつかない感じになっていったのは残念。
幽霊との奇妙な同居生活を描いた短編 「しあわせは子猫のかたち」と、 少女の家出から始まった騒動を描いた「失踪HOLIDAY」の2本を収録。 悪くはないという印象。 丁寧に話を運んでいるし、語りも安定している。 しかし、全てを語りすぎるきらいがあり、 それが全体の雰囲気を「お子様向け」にしているのが残念。 ミステリと銘打っているわけではないが、謎解きの要素があって、 これまた出来は「惜しい」というところ。 もう一歩トリック自体をひねるか、 叙述をひねるか、人間を描くかすればぐっと評価が上がるのだけれど。
読んで愕然。 書店で見たときにアンテナに引っかかってこなかったのが、 自分の嗅覚の鈍さをあらわしていて実に悔しい、 そんな作品。
外見は人間ほどの大きさの二足歩行する亀である「かめくん」がこの作品の主人公。 かめくんが実に当たり前に、静かに日常を送るさまが、 淡々と、ごく淡々と描かれてゆく。
この、かめくんの思考が実にまっとうに描かれているのが素晴らしい。 思考するために作られたものとして、 かめくんの存在が鮮やかに浮かび上がってくる。
かめくんの生活の中にちらちらとあらわれる、 木星で起きていると言われる戦争の影から、 私たちはかめくんと彼を取り巻く世界を少しずつ知ってゆく。 ハードで、だけど可笑しくて、哀しい匂いのする世界。 かめくんの日常はそんな感慨とは無関係に、静かに、ほのぼのと続く。
しかし、いつのまにか日常は世界に侵略される。
なんだか胸がかきむしられるようにいとおしい。 「アド・バード」や「ハイブリッド・チャイルド」でも味わった感覚。 けれどこの作品は、かめくんの日常が、面白く、暖かく、 力の抜けたものであるだけにより始末が悪い。 泣くことすら許してもらえないというのは、つらいもんです。
「人でないもの」好きならぜひ。
「パーフェクト・ブルー」で活躍した、退役警察犬マサの口から語られる短編集。 あっという間に読みきらせてしまう筆力に驚嘆。 読んで損なし。
実に素直な成長物語。王道で、かつ面白い。
運命によって、「血」によって翻弄された人々の、 あまりに壮絶で、重く、悲しい物語。
読み終わったあとに表紙を見ると、余韻がいや増す。 よろいに身を包む幾多の兵士たち。 その中にたった一人、風に吹かれて立つ少年。 実に感慨深い。
読んでよし。
これは確かに名作。 なんだか自分がうまく回っていかない、 妙に息苦しい、ひょっとして息の仕方を忘れてるのかもしれない、 そんな漠然とした焦りを感じたら、 読んでみるといいのかもしれない。 バイブルたりえる作品。
「少年の時間」と対になる短編集。 「少女」というお題への期待が大きいせいか、 やや前作よりパンチが弱い気が。 小林泰三「独裁者の掟」が「ふむ、うまい」という感じ。
さまざまなジャンルの作者による書き下ろし短編集。 なかなか粒ぞろい。
上遠野浩平の「鉄仮面をめぐる議論」はラストの2ページ、 「その後の鉄仮面の話」を見せるために作られた短編。 かなり安心して読めるが、お題になっている少年がちょっと虚無的に過ぎる感も。 菅浩江「夜を駆けるドギー」は2ちゃんをよく研究しているところにニヤリ。 熱くなれないこの時代の少年 -- いや、この時代に一人で生きる人、 くらいに広いくくりでもいいかもしれない -- を非常によく描いている。 現実を描いているかどうかはわからないけれども、 少なくとも私にとっては非常に納得できる描写だった。 平山夢明「テロルの創世」は正統派少年もの。 ここまで正統派なら心地よい。
といったところが印象的。
エマノンシリーズの2巻目。 例によってちょっと素直すぎて私的には少しむずがゆくなるのだけれど、 それでも大事にしたい作品ではある。
巷では「引き上げ時を間違えてる」と言われてるこの作品。 確かに引っ張りすぎのきらいはあるけれど、 それでも十分読むに足る「痛さ」を維持していると思うので私は支持。 とろとろと続く、ある意味心地よい痛さ。 「それは作品がだめになってる証拠だ」という気ももちろんするけど、 よいのです。とにかくこのガジェットはまだ私の中では死んでないのです。
これを読んでいるとき、頭の中では電ボの歌う「恋をいたしましょう」が流れていた。 ちせが戦ってるシーンにかぶせて、 ラジオからノイズ交じりで流れたらきっと泣いちゃうと思うんですがいかが。
あ〜終わっちゃった。もったいない。 非常に好みなのでもう少し続けてほしかった。 まあこんな痛みも、この作品を覆っている 「おそらく一瞬しか訪れないあの時間」というイメージの助けとなって、 この作品をより印象深いものにしているのだろう。
これまた終わるのがちょっと早い。 なんだか30分アニメ2本分くらいの印象。 もう少し見ていたかった。
待望の新刊。 話は確かに進んだが、ドラマ性はこれまでのものと比べてかなり低い。 新しい展開に向けてこれまでのしがらみを整理したといったところ。 これはこれで十分面白いのだけれど、 早く次のを出さないといかんでしょう。
第2次大戦中、ごく普通の日本人はいったい何を考え、 どう暮らしてきたのかを探った本。 都市部の職業女性は浪費を続け、 敗戦の可能性がわりと普通に語られる、というように、 暗い戦争時代という伝えられたイメージとは異なる、 微笑ましくもある生活をしたたかに送っていた日本人の姿が現れてくる。 非常に興味深い。
いい感じ。 ラストシーンの余韻の残し方が見事。
巻の途中までは前巻と同じくお気楽な感じだったが、 中盤から一気に痛い展開に。 ラストはまあほんのり柔らかくまとまって満足。 最後の1ページには爆笑。
これは面白い。 ネタ的にはかなり読む人を選ぶだろうけど、 個人的にはかなりつぼ。 連載は零式だけど、エロではないので大丈夫。 我こそはと思わんものは読むべし。
3月半ばまで完全に死んでました。主だったところだけごく簡単に。
中盤の劇中劇のくだりの静かな恐怖感はすさまじく、 なんとも言えない気持ち悪さに包まれるが、 全編を読み終えて残るのは失われたものへの憧憬。 恐ろしく、けれども見たくてたまらず、そして見てしまうとほのかに痛いものたち。
全編を通して描かれる少年の成長が心地よい読後感を残す。 世界のイメージも非常に美しい。
戦場カメラマンの生き様の一端に触れた感じ。
炎の魔女に傷物の赤、どっちもほんとにいい女だねぇ。
科学が終焉を迎えているのではないか? という疑問を一流科学者たちにぶつけた記録集。 なかなか貴重。 この質問には、各々の信念で答えを出していけばいいのだけれど、 少なくとも現実的な制約、コストの観念は捨ててはならない。
う〜ん、さわやか。
決してすべてきれいに収まるわけではない。 だけど、あがいても、ぶざまでも、それでも前を向いて歩いていく、 そんな人々への精一杯の応援を詰め込んだ作品。
読者をぎりぎりと引き付け、そして結末ですとんと放り出してしまう、 そんな印象が残る。 ぴんと張り詰めた、あまりにあやうい生き様を見せる女性たちと、 その女性を観察する眼として描かれる男たち。 その、あまりに乾いた男たちの姿に、驚きとも、怒りとも、 悲しみともつかぬ気持ちを呼び起こされつつも、 女性たちの後ろ姿が目の前をちらついて離れない、そんな作品群。
読まなきゃだめ。 特に2巻なんかは「人間じゃないもの」好きとしては実につぼを押される話。 読まなきゃだめなのです。
あまりといえばあんまりな美しい終末の話。 一切を拒絶する、何もかもを無視してただそこに在る終末。 ラスト付近、まるで天から落ちるように、美しく、哀しく、 水の底へと降りてゆく少女の姿が実に印象的。 まあただ、無責任といえば無責任、あまりといえばあまりだ…。 こんな作品ばかり書いてたら感心しないけど、 ほかの作品は違うんでしょう、きっと。 読んでないから知らんけど。
う〜む、かわいいのぅ。
これまたほのぼのしてよろしい。
実に優しい気持ちになれる作品。
でたらめ科学が気持ちいい。 読むなら、少しは科学を知ってるほうが安全かな?
こう言っちゃなんだが装丁がいかにも色物くさくて、 ちょっと手にとるのをためらっていたが、 読んで正解。 軍隊であり、かつ学校でもある、 訓練校という特殊空間でのリアルなどたばたした日常に笑わされながら、 20歳にもなっていない少女たちが放り込まれるあまりに厳しい現実にはっと胸を衝かれる。 主人公の、歴戦の勇士でもある教官が、 「いかに殺すかでなく、いかに生き残るか」を教えようとするところなどを読むと、 私は納得しつつも苦い気持ちにとらわれるのだった。
押井守の飼い犬にまつわるエッセイ集。 こんな内容でもところどころ押井節がきいてしまうところがおかしい。 私のトーテムはどうやら猫なので、 犬の話にはそれほど思い入れがないのだが、それでも面白い。 愛犬「ガブ」の美醜についてはなんとも判断できなかったが、 愛猫「ねね」は確かに飼い主が自慢する通りの美猫だった。
良くも悪くも安定した話運びに。 恒例のプロローグ・エピローグは前作よりいい効果を生んでいる。
ノベライズだと思って気軽に読もうと思ったらとんでもないことに。 素晴らしい出来。 人と、ロボットと、アンドロイドと、 それぞれ姿は異なっているけれど、 彼らは皆、たとえどんな無様な姿をさらしても手放せない 「想い」によってしか生きてゆけない。 その事実が引き起こした、狂おしく、そして哀しい物語を見事に描いている。
人外好きなら泣けること間違いなし。
これまた見事。前半は、はて、作者はどこへ私を連れて行こうとしているのかな、 と少し不安を感じるような滑り出しだが、 気がつくと物語の中にどっぷりと漬けられていることに気がつく。 そして、結末で巫女のアグノーシアが告げる世界への愛の言葉に震えるような感動を受け、 最終ページで張り倒されたかのような衝撃とともに目を覚ますのだ。
これはシリーズの中でかなり良い方に入ると思う。 それぞれのシーンが実に画になっている。 特に犯人が判明するイリュージョン、犀川が叫ぶシーンなどは見事。 それぞれのキャラの行動も小憎らしいくらいきまっている。
ところでこのシリーズ、 キャラクターの思考プロセスや思想の傾向に実に共感が持てる。 自分だけではない、ざっと見回した周りの人間も同じような思考パターンだろう。 そのあたりのリアルさが一貫しているあたりはさすが。
対となる「幻惑の〜」と比べると、こちらは若干劣ると言わざるを得ない。 このネタなら、もう少し物語を語る際に書きようがあったのではないか、 などと思ってしまう。 京極さんが同じような話をもっと精緻に組み立てていただけにね…。
普通に面白い。 この作者の作品は、美しいもの、信じるに足るものがあることをぬけぬけと言い切るところが弱みではあるけれど、 それがまた強みでもある。
ミュートスノート戦記完結。大団円ではなく、 これまでのシリーズ全体で伝えている「考えろ、考えろ、考えろ」というメッセージを、 そのままこちらに残して去っていったラスト。 受け止めるべし。
何かが欠けてしまった人たちが触れ合い、その隙間を見つめ、 そしてともに生きていく。 自分の中に、静かに何かが満たされていく、 哀しくも暖かい、やさしい作品。